ガス浸硫窒化(Gas Nitrosulfidizing)

ガス浸硫窒化とは、鉄鋼材料の耐摩耗性、耐焼付性、耐カジリ性の改善を図るために、鋼材の表面に、窒化物および硫化物を生成させる表面改質法です。
浸硫窒化法は、従来窒化性の溶融塩に硫黄物を添加した溶融塩浴に処理による処理方法で、耐摩耗性、耐焼付性の向上に効果をあげたが、塩浴の不安定性が問題でした。その後、安定した溶融塩浴を用いるスルースルフ法が開発実用化されました。
そうした中で、溶融塩浴浸硫窒化方法にかわり、ガス浸硫窒化方法が開発されました。
ガス浸硫窒化方法は、雰囲気中の浸硫窒化成分や窒化成分の濃度を自由に変えることができ、洗浄の後処理が不要などの利点があります。

ガス浸硫窒化(Gas Nitrosulfidizing)の特長

①低ひずみ

浸硫ガスは強い還元性ガス(H₂S)で、前工程で発生する表面の窒化阻害因子を除去し、安定した処理が可能です。
浸硫ガスは、低温において表面活性化の効果が発揮します。

②耐摩耗性、耐焼付性、耐カジリ性

耐摩耗性、耐焼付性、耐カジリ性の対策として、浸炭、窒化、ズブ焼入れで硬化した個体潤滑被膜処理が実施されているが、ガス浸硫窒化方法によれば、1工程で解決できます。

③ギヤ鳴りの低減

ギヤに浸硫窒化処理すると、歯面のかみ合い時の発熱を抑えることができ、焼戻し軟化抵抗が大きいので、耐ピッチング性の向上にも効果があります。

事例紹介

原理

主なガス浸硫窒化方法は以下の通りです。 

  • ・NH₃+N₂+H₂S(混合雰囲気による方法)  
  • ・NH₃+CS₂  
  • ・浸炭性キャリアガス+NH₃+H₂S  
  • ・NH₃+(NH₁)₂S+Ar
  • ・RXガス+NH₃+CO₂+NM(窒素成分98%+硫化水素成分2%)ガス

現在実用化されている方法は、CO₂+(NH₃+N₂)+H₂S(=浸炭性ガス+窒化性ガス+浸硫性ガス)混合雰囲気を使用し、処理品の材質に応じて混合比率を調整します。

構造システム

  • ①排ガス処理は、まず排ガスを分解炉に通し、排ガス中の残留アンモニアを2NH₃→N₂+3H₂の分解反応により、N₂とH₂に分解します。これにより、NH₃の刺激臭を低減させることが出来ます。
  • ②高温の分解ガスを熱交換器で冷却してから、除害装置を通し、残留している硫化水素を基準値(10ppm、14mg/m³)以下に下げます。
  • ③除害後の排ガスを燃焼筒で燃焼させてダクトで屋外に排出します。

 

組織

ガス浸硫窒化処理した鋼を組織観察したところ、薄くて緻密な窒素化合物層の表面にポーラス層は見受けられず、固体潤滑性のある浸硫層が形成されます。
また、合金鋼では、窒素化合物層の下に、窒素拡散効果層が形成され、疲労強度の向上を図っています。
ガス浸硫窒化での摩耗性には、化合物層の炭素の存在が重要であり、それが表面硬さを向上させ、耐摩耗性を良くします。

材質と表面硬さ(HV)

  • 圧延鋼板(SPCC)…450~650
  • 炭素鋼(S45C)…550~800
  • 炭素鋼(SK5)…550~800
  • 構造用合金鋼(SCM435)…650~900
  • ばね鋼(SUP)…650~750
  • 合金工具鋼(SKD61)…1000~1200
  • ステンレス鋼(SUS304)…1000~1300

 

安全

ガス浸硫窒化方法は、有毒なアンモニアガスや硫化水素ガスを使用するので、浸硫窒化炉は減圧CVDと同様の構造システムになっています。
また、有毒ガスを100%で使用するのは危険なため、一般には水素ガスや窒素ガスで希釈し、安全に努めています。

ガスの用途

  • RXガス…CO  18~25%、H₂ 28~40%、N₂残りその他
    最低着火温度は760℃であり、760℃以上のRXガスが空気に接触した場合、燃焼します。変成ガスはキャリアガス(搬送ガス)と呼ばれ、炉内に送入されます。
    N₂…炉内製品の保護、燃焼温度低下時の爆発を防ぐために、純窒素を無酸性化、還元性雰囲気ガスとして供給します。

 

ガス特性

  • N₂…変態ではなく、添加元素の窒化物が拡散することにより、硬化します。そのため、寸法変化は小さく、500~600℃の高温下でも、軟化しにくいです。
  • NH₃…アンモニアガスから乖離した原子状の窒素(N₂)が鋼の表面から内部拡散します。鋼内部のクロム(Cr)やモリブデン(Mo)などの元素と結びついて硬い窒化層を形成させます。
  • CO₂…CO₂ガスを添加すると、炉内のH₂と反応し、NH₃の解離が進行すると同時に、窒化反応を阻害するH₂と反応し、窒化速度も増します。そのため、NH₃ガスの使用量も減らすことが出来ます。

 

ガスの毒性

  • N₂…窒素の使用は、空気中の酸素濃度が低くなるので、密閉した喚起の悪い場所では、行わないこと。
  • NH₃…毒性ガスに指定されており、取扱には注意が必要です。
    薄い濃度で検知ができるため、すばやい対応が可能です。
  • CO₂…毒性が問題になることは、少ないです。空気中のCO₂濃度が高くなると、頭痛・めまい・吐き気を催します。
  • H₂S…強い腐卵臭のする有毒な気体で、目・皮膚・粘膜を刺激するため、取扱いには十分注意する必要があります。
事例紹介
事例紹介

ガス浸硫窒化処理組織(SCM415)

事例紹介

未処理品組織(SCM415)