ガス軟窒化(Gas soft nitriding)

ガス軟窒化とは、製品表面に化合物層を得る表面硬化処理です。
炉内を雰囲気ガスとアンモニアで満たし、窒素と炭素を浸透させ、製品表面に高硬度の化合物層を生成します。
表面硬さはHV400~600程、鋼種によってHV900以上にもなり、化合物層の生成により耐摩耗性が向上し、また化合物層直下には拡散層が生成され、疲労強度の向上も期待できます。
他の熱処理と比べ、比較的低温で処理をするため歪みや寸法変化は小さく、鉄と窒素の化合物が表面を覆うため、耐食性が向上します。
処理後は表面に酸化膜が形成しにくく外観が綺麗なことや、ほとんどの鋼種に対して処理が行えるのもガス軟窒化の特徴です。
ガス窒化よりも処理時間が大幅に短いことも特徴で、弊社では連続式ガス軟窒化炉の導入や、製造ラインの自動化によって、高品質の製品を安定的に量産することが可能です。

ガス軟窒化(Gas soft nitriding)の特長

1.ひずみが少ない

通常の焼入れ焼戻し処理・浸炭焼入れ処理は材料の組織変化によって硬さ等の機械的性質を得ます。
そのため処理温度が800~950℃と高温になりますが、ガス軟窒化は組織変化を必要としないため、熱処理の中では比較的低い温度である500~580℃程の温度域で処理をします。
従って組織変化による寸法変化は無く、歪みも他の熱処理に比べて極めて小さいため、 寸法規格の厳しい製品に対しても有利となります。
焼戻し工程も必要なく、高温下で表面硬度が下がるという心配がありません。

2.耐摩耗性・疲労強度向上

ガス軟窒化処理によって製品表面には圧縮応力が残留し、製品の表面硬度を高め耐摩耗性が向上します。
化合物層直下にある拡散層は、材料に含有される合金元素と窒素が結合することによって生成され、 疲労強度の向上も期待できます。
また、鉄と窒素からなる化合物Fe4N・Fe2Nは化学的に安定しているため、表面を覆うことで耐食性にも優れ製品の劣化を防ぎます。

 

SPHC処理前組織写真

SPHCガス軟窒化組織写真

事例紹介

トルクコンバータ部品

トルクコンバータとは、AT自動車に取り付けられる変速機です。
エンジンの動力を効率良く伝達する以外にも、振動を緩和する役目も担っています。回転部品が多く組み込まれているため耐摩耗性、疲労強度向上を目的としてガス軟窒化処理が採用されています。
また、トルクコンバータ内はエンジンの熱が伝わることにより高温になることがありますが、ガス軟窒化処理をした製品は高温でも、硬度が下がることがありません。

ベアリング保持器

ベアリング内部の玉やコロなどの転動体を定位置に保持し、玉同士がぶつかるのを防ぐ部品です。
保持器は転動体と共にベアリング内部で動いているため、摩擦を生じます。
摩耗や繰り返し疲労により変形や割れが起こるとベアリング自体が機能しなくなるので耐摩耗性や疲労強度を向上させ、ベアリング本来の滑らかな動きを維持しています。