焼きなまし(Annealing)

焼きなましとは、加工硬化による内部のひずみを取り除くことで、組織を軟化させて展延性を向上させる熱処理である。
焼なましはその目的によりいくつかの種類に分けられます。
下記に完全焼きなまし、球状化焼なまし、応力除去焼きなましについて説明します。

事例紹介

完全焼きなまし

一般的に行われる処理であり、加工工程で発生する加工硬化や残留応力などの内部のひずみを取り除き、組織を軟化させて展延性を向上させます。
これは、金属組織の格子欠陥が減少し、再結晶を行うことで組織が均質化し残留応力が減少することで起こります。得られる硬さは冷却速度に左右され、冷却速度が速いほど硬くなります。機械構造用炭素鋼の場合、冷却方法は炉冷ですがCr などの合金元素を含んでいる合金鋼は焼きが入りやすいため、冷却速度を20℃/h 以下にする必要があります。保持温度は、亜共析鋼の場合は鉄-炭素系平衡状態図のA3線より20~30℃高い温度で、過共析鋼の場合はA1線より20~50℃高い温度で行います。
この温度を一定時間保持することで、組織をオーステナイト化させ、その後100℃/h以下で徐冷します。
徐冷により、完全焼なまし後は鋼の標準組織(柔らかい層状パーライト組織)が得られます。

事例紹介

左がSUS430の鍛造加工後の金属組織
右が焼鈍処理を施した金属組織

球状化焼なまし

球状化焼きなましは、炭素工具鋼・合金工具鋼・軸受鋼には必須の熱処理です。また、強靭性を重視するような重要保安部品などは球状化焼きなましをした機械構造用鋼が用いられます。主な球状化焼きなましの方法を説明します。

  • ①長時間加熱法
    変態点Ar1直下の温度に長時間加熱します。とくに冷間加工品、焼入れ品、焼ならし品に有効な手段です。
  • ②繰返し加熱冷却法
    変態点Ac1直上、Ar1直下で加熱と冷却を繰返した後、徐冷します。変態点Ac1直上の温度でセメンタイトが分断され、Ar1直下の温度で球状化が進行します。
  • ③等温保持徐冷法
    約760℃に加熱した後、約700℃まで冷却し、その温度で数時間保持後、約650℃まで徐冷し、その後空冷します。制御が容易なため工業的規模で最も多く利用されます。

左が処理前の金属組織
右が球状化焼鈍処理を施した金属組織

応力除去焼きなまし

左図に熱間圧延鋼板(SPHC)の加工工程にともなう組織変化を示します。購入状態の鋼板は若干高温加熱の影響は見られますが、ほぼ正常なフェライト結晶粒を呈しています。このフェライト結晶粒は、曲げ加工することによって引き延ばされ、結晶粒内には多数のすべり線が発生している様相が観察されます。
応力除去焼なましすることによって結晶粒が再配列しており、購入状態のときよりもむしろ均一で微細な結晶粒が得られています。

左が圧延鋼板の圧延加工後の金属組織
右が焼鈍処理を施した金属組織